大阪地方裁判所 平成12年(レ)75号 判決 2000年7月10日
控訴人
畑中敏行
被告
村上領
主文
原判決を次のとおり変更する。
一 被控訴人は、控訴人に対し、金一〇万七一〇〇円及びこれに対する平成九年一一月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 控訴人のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを一〇分し、その三を被控訴人の、その余を控訴人の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一申立て
一 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は、控訴人に対し、金三〇万円及びこれに対する平成九年一一月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は、控訴人の負担とする。
第二事案の概要
本件は、控訴人が、控訴人所有、訴外畑中真理子(以下「訴外真理子」という。)運転の普通乗用自動車と被控訴人運転の普通貨物自動車が接触した事故により、控訴人所有の普通乗用自動車につき修理費相当の損害を被ったとして、被控訴人に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求した事案である。
一 争いのない事実
交通事故(以下「本件事故」という。)の発生
(1) 日時 平成九年一一月七日午後七時三〇分ころ
(2) 場所 大阪市中央区西心斎橋二丁目 府道高速大阪池田線、通称阪神高速一号環状線(以下「環状線」という。)道路上
(3) 事故車両一 普通乗用自動車(登録番号・なにわ三五と二七一六(左ハンドル)、以下「控訴人車」という。)
運転者 訴外真理子
所有者 控訴人
(4) 事故車両二 普通貨物自動車(登録番号・神戸一一て八〇〇、以下「被控訴人車」という。)
運転者 被控訴人
(5) 事故態様 控訴人車右側面と被控訴人車左側面前部が接触した。
二 争点
(1) 本件事故態様
(控訴人の主張)
本件事故の発生場所は、別紙湊町ランプ周辺の道路状況図(以下「図面」という。)記載の環状線〇・四kmポスト地点付近である。
訴外真理子は、控訴人車を運転して、図面記載の環状線湊町入口ランプの導入車線(以下「導入車線」という。)を経て、環状線の左から二番目の車線(以下「環状線第二車線」という。)を環状線梅田出入口(北方向)へ向けて進行していた。訴外真理子が、図面記載の環状線第二車線〇・四kmポスト地点付近を進行していたとき、環状線の左から三番目の車線(以下「環状線第三車線」という。)を進行していた被控訴人車が、控訴人車の進行する第二車線に割り込んだため、被控訴人車の左側面前部が控訴人車の右後部ドアから右側ドアミラーにかげて接触した。
(被控訴人の主張)
本件事故の発生場所は、導入車線が、図面記載の環状線松原方面からの本線車道(以下「松原線」という。)及び図面記載の阪神高速一五号堺線(以下「堺線」という。)と合流した地点から、少し進行した地点、すなわち、図面記載の環状線第二車線〇・二kmポスト地点付近である。
被控訴人は、被控訴人車を運転して、松原線の一番左側の車線(以下「松原線第一車線」という。)を経て、環状線第二車線を進行していたところ、前記環状線第二車線〇・二kmポスト地点付近で、被控訴人車の左側を進行していた控訴人車が右に近寄ってきたため、控訴人車の右側面と被控訴人車の左側面前部が接触した。
(2) 責任及び過失割合
(控訴人の主張)
本件事故は、導入車線が松原線及び堺線と完全に合流した地点よりも、さらに二〇〇mほど進行した前記の環状線〇・四kmポスト地点付近で、被控訴人車が、控訴人車の進行する環状線第二車線に割り込んできたために発生したものであり、被控訴人は、左に車線変更する際には、前方及び左側方を注視する義務があるにもかかわらず、これを怠り、漫然と控訴人車の進行車線に割り込んだ過失がある。したがって、被控訴人は、本件事故により控訴人車に生じた物的損害につき、民法七〇九条に基づく損害賠償責任を負う。
そして、前記のとおりの本件事故態様からすれば、被控訴人の過失割合は七割を下らない。
(被控訴人の主張)
本件事故は、導入車線を進行していた控訴人車が、被控訴人の進行する車線に割り込んできたため発生したものであり、訴外真理子は、進行方向右側を注視して進行する義務があるにもかかわらず、これを怠り、被控訴人車の進行車線に割り込んできた過失があり、他方、被控訴人には過失はない。
第三争点に対する当裁判所の判断
一 本件事故態様
前記争いのない事実、証拠(甲一、四、乙五ないし九、一一ないし一六、一九、原審における証人訴外真理子、原審における控訴人本人及び被控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 本件事故現場の概況
現場付近は、湊町入口ランプからの導入車線が松原線及び堺線に合流する地点である。導入車線は、湊町入口料金所では二車線であるが、その後一車線となり、導入車線を経て松原線第一車線に合流している。松原線は三車線の道路、堺線は二車線の道路で、合流後の環状線は四車線の道路である。導入車線は松原線第一車線と合流する地点で終了しているが、合流した直後の環状線第二車線は、他の車線と比較して幅が広く設けられており(図面記載の環状線第二車線〇・二kmポスト地点付近)、しばらくは、松原線第一車線と堺線第二車線を進行してきた車両が並進できるようになっている。環状線左側には〇・三kmポスト地点の手前から〇・四kmポスト地点にかけて、安全地帯が設置されている(図面の斜線部分)。なお、本件事故当時、松原線と堺線はいずれも渋滞していた。
(2) 本件事故態様
(一) 訴外真理子は、控訴人車を運転して、大阪市北区梅田にあるヒルトンプラザに向かうため、湊町入口料金所の左側ゲートから導入車線に進行し、環状線梅田出口へ向かう途中であった。訴外真理子は、導入車線の左側の車線である堺線第二車線に合流したいと思っていたが、堺線第二車線に合流できないまま、導入車線が終了した図面記載の環状線第二車線〇・二kmポスト地点付近に、渋滞のため徐行しながらさしかかった。訴外真理子は、堺線に合流しようとして左側に気を取られ、右後方及び側方を注意して見ていなかったため、導入車線の幅が狭まっていくにつれて、控訴人車が、松原線第一車線を進行していた被控訴人車の方に、少しづつ近寄っていることに気づかなかった。その結果、図面記載の環状線第二車線〇・二kmポスト地点付近の本件事故発生場所とある地点において、被控訴人車の左側面前部と控訴人車の右側ドア部分が接触し、さらに、被控訴人車の左側面前部が控訴人車の右側ドアミラーに接触して、右側ドアミラーを前方に倒した。
一方、被控訴人は、作業現場からの帰り道、被控訴人車を運転して、松原線第一車線を進行し、名神高速道路尼崎インターへ向かう途中であった。被控訴人は、導入車線との合流地点にさしかかったとき、被控訴人車の左後方の導入車線上を進行している控訴人車の存在に気がついた。当時、松原線第一車線は渋滞しており、導入車線を進行していた控訴人車の速度の方が、被控訴人車の速度より若干早かったため、被控訴人車と控訴人車の距離は少しづつ狭まっていった。被控訴人は、図面記載の環状線第二車線〇・二kmポスト地点付近にさしかかったとき、左側を注意して見ていなかったため、控訴人車が、被控訴人車と同じ環状線第二車線上のやや左前方に接近、並進していることに気づかず、被控訴人車助手席同乗者の「危ない。」という声で、ハンドルを右に切ったが間に合わず、その結果、図面記載の環状線第二車線〇・二kmポスト地点付近の本件事故発生場所とある地点において、被控訴人車の左側面前部と控訴人車の右側ドア部分が接触し、さらに、被控訴人車の左側面前部が控訴人車の右側ドアミラーに接触して、右側ドアミラーを前方に倒した。
(二) これに対し、控訴人は、本件事故発生場所は図面記載の環状線第二車線〇・四kmポスト地点付近であり、同所においては、既に合流が完全に終了している上、被控訴人車が控訴人車の進行する環状線第二車線に割り込んできたために、本件事故が発生した旨主張し、交通事故証明書(甲一)の発生場所の記載及び鑑定書(甲四)は、控訴人の右主張に沿う内容になっている。
しかし、原審証人訴外真理子は、接触後、警察官が来てから控訴人車をすぐ左前の安全地帯に移動させた旨供述していること、前記のとおり安全地帯は図面記載の環状線第二車線〇・四kmポスト地点でなくなっていることからすれば、本件事故現場が、同〇・四kmポスト地点ということは考えにくく、交通事故証明書の発生場所の記載は、その根拠が必ずしも明らかではない。そして、前掲の各証拠によれば、被控訴人車は松原線第一車線から車線変更しないで、そのまま環状線第二車線に進行したから、本件事故当時、被控訴人車は環状線第二車線を進行していた事実が認められる。他方、原審証人訴外真理子は、左側の車線である堺線第二車線に入りたいと思いながら、同車線が混んでいたので徐行しつつ、進行していたところ、車線変更する前に接触した旨供述していることからすれば、控訴人車も環状線第二車線を進行していた事実が認められる。右各事実によれば、控訴人車及び被控訴人車が、いずれも環状線第二車線の幅員が広い部分を併走進行中に本件事故が発生したと認めることが相当であり、したがって、本件事故は、図面記載の環状線第二車線〇・二kmポスト地点付近の本件事故発生場所とある地点で発生したことが認められる。
また、鑑定書は、控訴人車の右側ドア部分に見られる擦過痕は斜め状の痕跡となっており、被控訴人車の左前輪によって生じたものと考えられ、右擦過痕が生じるためには、被控訴人車の左前輪が車体枠から外側に張り出していることが必要であるから、被控訴人がハンドルを左に半回転から一回転切った状態で被控訴人車の左前輪が接触したと考えられるという内容である。
しかしながら、被控訴人がハンドルを右に切った状態でも、左に切った状態と同じように被控訴人車の左前輪が車体枠から外側に張り出すと考えられること、原審における被控訴人本人は、接触する直前に助手席同乗者の「危ない。」という声を聞いて、右にハンドルを切った旨供述していることからすれば、前記擦過痕は、被控訴人がハンドルを右に切ったときに、被控訴人車の左前輸が車体枠からはみ出して控訴人車に接触したことにより生じた可能性もあり、鑑定書が裏付けとして十分とまではいえない。
なお、原審において控訴人本人は、衝突地点において、控訴人車は白線をまたいでいなかった旨供述するが、前記認定のとおり、本件事故は、車線間の白線をまたいでの接触事故ではなく、同じ環状線第二車線内を控訴人車と被控訴人車が並進していた状況下で発生した接触事故であり、控訴人車と被控訴人車との間に白線は存在していなかったのであるから、控訴人車が白線をまたいでいなかったことをもって、被控訴人車が白線を越えて割り込んできたことの根拠にはならない。
(三) 一方、被控訴人は、控訴人車は右側の方向指示器を点滅させており、被控訴人車の左後方から、被控訴人車の左前方に鋭角に割り込んだ旨主張し、原審において被控訴人本人も右主張に沿う供述をしている。
しかし、被控訴人の前記供述は、いまだ裏付けが十分でないし、他方、原審証人訴外真理子は、環状線梅田出口で出るつもりだったので、左へ行きたいと思っていたし、左のミラーを見ながら運転していたので、右後方は注意していなかった旨供述しているところ、環状線梅田出口で出るためには、その路線図から明らかなように、ひとまず環状線を北に向かって直進した上、北西方向、すなわち左斜前方向に分岐して進行せざるを得ないことに照らし、訴外真理子が、左側の車線である堺線第二車線に合流したいと考えたのも、もっともであって、訴外真理子の前記供述は信用できるというべきであるので、訴外真理子が右側の方向指示器を点滅させる理由は何ら見い出せないこと、控訴人車の右側ドアミラーが前方に倒れていたということは、被控訴人車が控訴人車の後方から前方に向かって接触したと考えるのが合理的であることからすれば、被控訴人の右主張は採用できない。
以上のとおりであるから、前記(一)の各事実が認められる。
二 過失割合
以上に認定の事故態様に照らせば、本件事故の発生場所は、導入車線が終了しているが、いまだ、堺線及び松原線との合流の予備地点として車線の幅が広く設けられている地点(具体的には、図面記載の本件事故発生場所)であるから、導入車線を経て進行してきた訴外真理子が、環状線第二車線に進行する際には、本線である堺線第二車線及び松原線第一車線を進行する車両の動静に十分注意して進行すべき注意義務があったというべきである。そして、訴外真理子には、右注意義務を怠り、左側の堺線第二車線を進行する車両の動向に気をとられ、松原線第一車線を進行していた被控訴人車の動静を全く確認しないまま漫然と環状線第二車線を進行した過失がある。
他方、前記のとおり、本件事故の発生場所が合流の予備地点であること及び控訴人車が被控訴人車のやや左前方を進行していたことからすれば、被控訴人にも、環状線第二車線を並進している車両の動静に十分注意して進行すべき注意義務があったというべきである。そして、被控訴人には、右注意義務を怠り、左前方及び側方に注意することなく、環状第二車線に進行した過失がある。
なお、被控訴人は、訴外真理子が片手運転をしていた旨主張するが、原審において、被控訴人本人自身、はっきりとは見ていないし、自分にはそう見えたような気がするなどと供述していることからしても、右主張を認めるに足りない。
上記の過失の内容を比較すると、車線の合流地点では、各人が互いに他車の動静に注意すべきであるが、訴外真理子が導入車線を経て進行してきたことから、同人においてより注意を払うべきであったことを考慮すると、本件事故の過失割合は、訴外真理子七に対し被控訴人三とするのが相当である。
三 控訴人の損害 三五万七〇〇〇円
証拠(甲三)及び弁論の全趣旨によると、本件事故による控訴人車の修理費は三五万七〇〇〇円であったことが認められる。したがって、本件事故により控訴人が被った損害は三五万七〇〇〇円であると認められる。
四 過失相殺後の損害額 一〇万七一〇〇円
前記損害額三五万七〇〇〇円につき七〇%の過失相殺をすると、控訴人の過失相殺後の損害額は一〇万七一〇〇円となる。
第四結論
以上のとおり、控訴人の請求は、被控訴人に対し、一〇万七一〇〇円及びこれに対する本件事故日である平成九年一一月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 中路義彦 齋藤清文 池田知史)
湊町ランプ周辺の道路状況図